昨今、中小ベンチャー企業で注目を集めているマネジメント手法「1on1ミーティング」ですが、社長や人事部長の期待どおりの効果が上がらず苦労されている企業が多いようです。
デロイトトーマツググループにて3社、独立後4社の経営をしながら、12600社以上の中小ベンチャー企業に29年間にわたり支援をしてきたコンサルタントである白潟敏朗が、豊富なコンサルティング経験と自社での経営・マネジメント経験を基に最新のマネジメント手法でもある「1on1ミーティング」の成功ポイントについて解説します。
1on1ミーティングに成功する7つのポイント
「マネジャーにマネジメント力を強化してほしい」、「社員に成長してもらいたい」、「自立・自走できる社員になってもらいたい」等の社長や人事部長の期待に応えられる1on1ミーティングを実践するためには、何をすればいいのか?
その答えは以下の7つのポイントになります。
① 社長による適切な目的の設定と全員への衆知徹底(1on1で経営課題の解決)
② 社長の継続運用への強い意志
③ 経営陣の率先垂範(経営陣から1on1の実施)
④ 遵守すべき基本ポリシーと運用ルールの設定
⑤ まずは小さく成功し、それから大きな成功へ
⑥ 1on1オーソライスプログラム(認定制度)と研修・トレーニング制度の構築と運用
⑦ 定期的なアセスメント(評価)とアップデート
まずは、成功ポイント①から解説していきます。
1on1で経営課題の解決!全員への周知徹底!
当たり前のことですが、社長の本気度が極めて重要になります。1on1ミーティングは、全ての管理職と社員の貴重な時間を毎週または隔週で使います。管理職にはかなりの負荷がかかるマネジメント手法です。費用対効果を考えると、とりあえずやってみようか?での導入は絶対やめた方がいいです。
何のために1on1ミーティングをやるのか? 周知はどうするのか?
① 1on1ミーティング導入の目的を社長と経営陣がじっくり考え、経営課題が解決できる目的を設定する。
② 目的を設定したら社長と経営陣が全員に衆知徹底する。
この2つが重要です。まさしく、社長の本気度が試されます。
『Googleでやっているからうちでも1on1ミーティングをやろう!』、『流行りの手法1on1ミーティングをうちでもやってみよう!』のようなきっかけで1on1ミーティングを始めるならやめた方がいいです。必ず失敗します。1on1ミーティングは劇薬になるリスクが高い手法です。やるからには、社長が1on1ミーティングの「目的」を明確にすることから始めるべきです。簡単に思えることですが、これをやらずに導入する社長は意外に多いです。以下に1on1ミーティングの一般的な目的を示します。
・ 上司と部下のコミュニケーションの改善
・ 上司と部下の相互理解の向上
・ 上司と部下の信頼関係の向上
・ 部下のモチベーションアップ/維持
・ 部下の成長
・ 部下の自立・自走
・ 退職率の低下
・ メンタル休職率の低下
・ 仕事上の課題のタイムリーな解決
・ 部下が抱えている課題や悩みの解決
いかがでしょうか?適切な目的が設定できそうですか?
設定した目的は、自社の重点経営課題の解決になっていますか?解決になっていないのであれば、1on1ミーティングの導入は延期した方がいいかもしれません。1on1導入の目的で重点経営課題が解決できるのであれば、有効な目的の完成です。
目的は、欲張らずに1つずつ設定し実現していった方がいいです。例えば、私どものお客様では初めに「退職率の低下」を目的に1on1ミーティングを実施し、退職率が低下し効果がでたころに次の目的である「部下の成長」を設定し実践しておられます。
1on1ミーティングの「目的」が明確になったら、社長が幹部と社員にその目的を説明し周知徹底させます。導入前の経営会議や全体会議で、1回話しただけでは全員には浸透しません。
ことあるごとに、「何のために1on1ミーティングをやっているのか?」、「目的はどこまで実現できているのか?」などを社長が幹部と社員に語り続けなければ1on1ミーティングは浸透しないし、成功もしません。
エビングハウスの忘却曲線によると、人から聞いた話は1時間後に56%も忘れてしまいます。その忘れが翌日には74%になります。
社長のおもいや考えを浸透させるために、偉大な経営者は繰り返し何度も何度も伝えたそうです。社長、ぜひ1on1ミーティングの目的を語り続けてください。
導入して1から3ヵ月で1on1ミーティングの優先度をさげない
つぎに、成功ポイント②を解説します。
1on1ミーティングを導入して1から3ヵ月後、売上があがらないから・効果が見えないからという理由で社長が1on1ミーティングの優先度をさげると、幹部と社員は1on1ミーティングを真剣にやらなくなります。そして、社長の口から1on1ミーティングという言葉がでなくなったころには全員が1on1ミーティングをやめているでしょう。1on1ミーティングが定着しない会社の典型的な失敗パターンです。
社長は、OKR・OODA等最新の経営手法を常に学んでいるので、そちらに目を奪われがちになりますが拙速な判断は危険です。1on1ミーティングは1度定着に失敗すると、再開はしにくいし再開後に成功する確率も極めて低いです。
3ヵ月くらいで業績アップの効果を期待されるのであれば、1on1ミーティングの全社導入はあまり推奨いたしません。もちろん、1on1ミーティングを始めたら、それが理由による退職や休職が増えてきたような副作用がでてきた場合は、この限りではありません。
導入後最初の3ヵ月間は、毎月1回人事部門と幹部で振り返りミーティングを開催し1on1ミーティングの運用ルールをアップデートしていきます。そして、3から6ヵ月経ってから幹部と社員に1on1ミーティングのアンケートをとり、その結果で1on1ミーティングの継続可否を決めることを推奨いたします。
アンケートには、「目的の実現度合」、「上司のとってのメリットとデメリット」、「部下にとってのメリットとデメリット」、「具体的な定量効果・定性効果」を記載してもらいます。
まずは、経営陣と幹部で1on1ミーティング開始
最後に、成功ポイント③を解説します。
誰と誰が最初に1on1ミーティングをやるのか?これがポイントになります。
結論から申しますと、上から順番に始めることが成功への近道です。1on1ミーティングで有名なヤフーの本間浩輔氏の書籍『ヤフーの1on1/ダイヤモンド社』でも『宮坂や川邊をはじめとする経営陣全員が1on1の重要性を理解し、率先垂範してくれたことが効果的でした』と経営陣の率先垂範による効果が紹介されています。
経営陣から『え!今さらおれがやるの?』、『幹部とはかなり話もしているし、30分も話すことないなぁ?』等の反対意見もでると思います。ただ、以下に示す多くの効果も得られるのでまずは経営陣からやってみましょう。
・ 幹部が人に話をじっくり聴いてもらう傾聴の効果を体験できる。
・ 幹部が日頃伝えられなかった自分のおもいや考えを経営陣に伝えられる。
・ 経営会議ではわからなかった、経営陣と幹部の認識のズレをお互い確認できる。
・ 経営陣が幹部との目線のギャップを把握できる。
・ 自分のために貴重な時間を確保してくれた経営陣に、幹部が感謝し経営陣も少し嬉しくなる。
・ 幹部が1on1ミーティングをやらない言い訳ができない環境になる。
・ 幹部が1on1ミーティングをする時に、経営陣の話の聴き方・質問の仕方などを部下へ伝承できる。
社長だけはやらずに副社長や専務が代行する。週1回ではなく隔週に1回、月に1回など開催頻度の調整。開催時間は1時間ではなく30分にする。などの工夫により経営陣の負荷は減らせます。
まずは、経営陣から幹部に1on1ミーティングを始めましょう。
いかがでしたでしょうか?
最近、注目を浴びている1on1ミーティング。進め方により、良薬にも劇薬にもなります。
今回紹介した1on1ミーティングの進め方を、ぜひ御社の1on1ミーティングの導入の参考にして頂ければ幸いです。
④以降の成功ポイントについては、次回以降のコラムにて紹介していきます。